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私立恵比寿中学

アイドルグループは大体、他のアイドルグループと比較される。「あっちはあぁだけど、こっちはこうだよね」みたいな。売れてる売れてないや、規模の大小、メジャーデビューしているしていないに関わらず。

本格的に「その人のファン」「そのグループのファン」であればあるほど比べられるのは嫌がる、「比較してマシなのを選んだ訳じゃない」と。マシだから選んだのではなく、心に刺さったものがあったから、ファンでありたい、推したいと思ったのだ。

私立恵比寿中学(以下、エビ中)はももいろクローバーZ(以下、ももクロ)の妹分グループである。

こういう紹介のされ方は間違ってはいないのだが、なんだか比較されてるようで、あるいは太陽の影でコッソリ活動しているみたいな感じがして、やっぱりどこか抵抗感がある。ただ、世間一般の「いわゆるアイドルというものに興味のない」層に対して解説をするならば、この選択をとらざるを得ないだろう、とも思うわけだ。


ももクロ、国立競技場ライブ映像作品のコメンタリーで、あるスタッフがこういう事を話していた。

「アイドルのライブは総合芸術だ。」

つまり、音響があって、照明があって、大道具のセットがあって、細かい小道具や特殊効果があって、衣装があって、衣装にはちょっとした髪飾りから手袋、ブレスレットの類のアクセサリー、靴に至るまでいろんなものが含まれていて、ヘアメイクがあって、楽曲があって、場合によってはバンドが入って、歌があって、ダンスがある。MCも、お客さんのために用意された何かしらのコーナーも、その場で突発的にやっているわけではもちろんなく、いろいろと練られてきたものが披露される。

あらゆる視覚的聴覚的芸術的要素を問われる。だから総合芸術なのだ。
クリエイターに近しい感覚を持つ人がそれを見れば、その細部へのこだわりと作り込みのされ方に感嘆することだろう。

アイドルは「歌」や「ダンス」といった特定の分野のスペシャリストではなく、とにかく総合力を問われるジェネラリストのスペシャリストだ。しかしその本質は他の分野の表現者とそう大きくは変わらない。

これにはももクロだから、エビ中だから、という違いはない。


エビ中。8人組アイドルグループ。ももクロの妹分。
妹分といっても、ももクロは2008年結成でエビ中が2009年結成。その下のチームしゃちほこが2011年結成。さらに持ち曲数(リリースされている曲数)もももクロが合計170曲くらいに対して、エビ中は140曲程度。チームしゃちほこが70曲くらい(以上2017年2月時点)だから、ほとんどももクロと変わらないくらいのキャリアがある。

曲が多いということは、それだけ表現できる世界観の幅が広いという意味に直結していて、だからエビ中のライブも毎回面白い。

2016年9月にリリースした最新シングル「まっすぐ」も、聞けば聞くほどいい曲だなぁ、と思う。一方で「夏だぜジョニー」 のようなワチャワチャした極みのような曲があり、一方で「アンコールの恋」のような切ない恋心の曲があり、さらに「金八DANCE MUSIC」のようなコメディ曲あるいはネタ曲があり、さらに「いい湯かな」のような家族を想う曲があり、「禁断のカルマ」のようなファンタジー観の強い曲があり、様々だ。

 

私立恵比寿中学「夏だぜジョニー」

https://youtu.be/csJzMzMFiPE

私立恵比寿中学「禁断のカルマ」

https://youtu.be/1Ummhp5G03g

私立恵比寿中学「手をつなごう」

https://youtu.be/68WSrqdaoGU


ももクロと違う点は何か。完全に個人的な印象だが、ももクロは開拓者魂に満ち溢れていて、道なき道をガツガツと鉈を振りまわしながら、あらゆる変幻自在のカードを駆使して進んでゆく。相手のパーソナルスペースにも知らぬ間に入り込んでいて、ガシッと心掴んでいく。

対してエビ中は全体的に平和主義。争いを好まず、「人を思う」という事に特に敏感で、なので相手を思いすぎるが故にメンバーほぼ全員人見知りで、あまりファンの側にもアタックをかけてくるような事はしない。エビ中と一緒に仕事をした人たちは口々に「最初はクールで無口な人だと思った」みたいなコメントを残している。

2014年に旧メンバー3人が卒業する時はずっと泣き続けた最年長の真山りか。その後まだ中学生で不安感いっぱいでエビ中に新しく入った小林歌穂、中山莉子(カホリコ)に、「エビ中に入ってくれてありがとう」と言葉を、何度も掛け続けた安本彩花。深いぬくもりとガラスのような傷付きやすさの両方を内に持ったグループだと思う。

エビ中チーフマネジャー藤井さん(校長)はこう言う、「アイドルグループとして永遠の可能性を持っているのはももクロだけ」。いつかは卒業や解散をするアイドルグループなのであれば、その後もしっかりと「芸能人」として仕事を受けて、食べていけるようなある程度の下地をアイドルグループ活動の中に作っていかないといけない。

だからこそ、エビ中はソロ活動が多い。

タモリ倶楽部電車特集に度々登場する廣田あいか。アニソンを複数ソロでリリースしている真山。主演を含む複数の映画に単独で出演経験もある柏木ひなたNHK Eテレに一人出続けている安本。秋田ローカルラジオに自分の番組を持つ小林。深夜テレビ番組でMCをしていた星名美怜。モデルとしての複数の雑誌上で定期的に登場している中山、そして松野莉奈

ももクロより全然多い。


これが実際にできるのは個々人の技量の為せる技であり、だからこそエビ中には「主要メンバー」や「センター」といったものはない。全員がそれぞれ個が立っていて、全員が主要メンバーだ。

俯瞰的に見ると、ももクロのほうが全く突然変異型モンスターであり、エビ中のほうがむしろ王道アイドルのように見える。どっちのほうが良いということはない。
どちらも違う面白い側面をもっていて、どちらも大変魅力的で、それはまるで車の両輪のように絶妙なバランスで走り続けている。いや、むしろエビ中のほうが「寄り添っていたい」と思わせるグループといっていい。

前出の「まっすぐ」もまさにエビ中らしい、まっすぐな曲だ。

 

私立恵比寿中学「まっすぐ」

https://youtu.be/gvBdo0Pm5tI


ただ、そんなエビ中だからこそ、むしろ「奇をてらう」こと「大きな変化を起こす」ことには不慣れだ。

エビ中の存在はその前から知っていたし映像も見ていたが、一気に興味が湧いたのは2014年の武道館ライブ「合同出発式」の、特に安本彩花の「またあえるかな」を見た時からだ。まっすぐに、卒業する3人を想って歌ったこの歌には大きく心を揺さぶられた。

それから、何度かライブを見ているが、個々の技量の深さが分かるだけに、もっと違う物が見れるんじゃないかなぁ、というもどかしい気持ちがいつもついて回ってきた。柏木ひなた廣田あいかという歌に定評のあるメンバーを有するが故に、特に。エビ中としてさらに飛躍するには、もう一皮剥けることが必要なのではないかな、と。

その印象に対する答えも、エビ中は模索していたように思う。2016年4月にリリースしたアルバム「穴空(あなあき)」はエビ中にしてはかなり異色で実験色の強い作品だった。「俺たちぜってーアナーキー」と叫ぶ、ユニコーンのABEDONさんによる楽曲「ゼッテーアナーキー」は結構振り切ってみたな、と思う。ただ、「まっすぐ」を聞くに、違う方向も見始めたようだが、しかしエビ中としての芯はブレなかったようだ。

2016年年末のエビ中大学芸会「オーシャンズガイド」(1年の締めくくりライブ)はとても良かった。今までにないほど「もどかしさ」のないライブだった。新旧楽曲のバランス、BPMだけでなく曲想としても緩急のあるセトリ、世界観を丁寧に表現した舞台空間。「まっすぐ」でぶわっとなったところからの、岡崎体育「サドンデス」で盛り上がり、HERE尾形回帰「モラトリアム中学生」の骨太のロックの中に切なさに満ちた曲で本編を締める。そしてエビ中の歴史に刻み込まれてきた楽曲、前山田健一「永遠に中学生」でアンコールを締める。いいライブだった。「これが小慣れてきたら、もっともっと上に行くんだろうなぁ」そんな感じさえ持っていた。エビ中の進む未来が、ぼんやりとその姿を現しだした、そんな瞬間を見たライブだった。

年が明けて6人いる高校生メンバーのうち松野莉奈を含む4人が今年高校を卒業し、いよいよこれから活動の幅もより広がるだろう。未来は明るいだろうと思った。

その矢先だった。

 


僕はその先に繋げる言葉を見つけられていない。

ただ、ただ、「こんなこと、あってたまるもんか」という言葉だけが、頭の中を駆け回っている。

 

りななん、永遠に。

 

松野莉奈「できるかな」

 https://youtu.be/f0I4_rWHUnc