シュトックハウゼン「シュティムング」
大変に美しい。そして、たったの6人のヴォーカリストで奏でられている小ホールでの演奏であったが、それはそんじょそこらのオーケストラ作品を遥かに凌ぐほどの、壮大なスケールの音楽であった。
反面、隅から隅まで儀式的な音楽。例えれば仏教の声明か、または北インド地方の音楽。その自然界性と儀式性からは、どこかアニミズム的な古代宗教的な色彩を帯びる。現代の音楽でありながら、遥か悠久の彼方でさえ彷彿とさせる。
そして古代らしい「陽」の印象もまた、色濃い。神秘的ながらも、どこか開放的な音楽。それは、今まで持っていたシュトックハウゼンという作曲家の音楽に対するイメージとは、また大きく違うものである。
解説もそうだが、とにかく構造が小難しい。人間の発音構造から始まり、曲の進行、奏者に委ねられる部分と、演奏ごとのヴァージョン違い。それはプロ中のプロがまる1ヶ月準備しないと演奏できないほどの、難解な曲であることは理解するが。
開演前の客席においても、さも知ったりといった面持ちで曲の構造やら作曲者の人間性、当時の作曲事情などを語らう人がいたのは、この作曲家ならではか。
しかし、そういった背景事情云々を超えて全体を包み込む美の姿を、こうも巧妙に描けるというのは大作曲家の大作曲家たる所以であり、それこそ唯一無二たる、なのであろう。
シュトックハウゼンという音楽の真価を見たような気がした。